レムウェルの隠れてない隠れ家

Web小説更新記録やゲーム日誌

web小説 月下の白刃②

「うぃ~す……どうせ俺は手下Aっす……いつまで経っても手下Aっす……ヒック……どうあがこうと手下Aっす……俺は永遠に手下Aっすぅぅぅぅぅ!……ヒック……」

 俺の名前は手下A……じゃなかった…堤下栄っす。以後お見知り置きをっす。

 水無月の兄貴に誘われて今日も合コンに参加したけど、見事なまでの惨敗を喫してしまったっす……。

 何故っすか?何故なんでしょうか?何でいつもいつも……美味しいところは兄貴にさらわれちまうんすかぁぁぁぁぁ!

 金城さんって恋人(ひと)がありながら、何でいつもいつもいつもいつも!一番の綺麗どころを持ってっちまうんすか兄貴はぁぁぁぁぁ!

 ……あの眼鏡の帽子の娘は可愛いかったっす……。

 いつも帽子を深めに被っていて、口数が少なくて控えめで……何よりあの丸い大きめの眼鏡が彼女の清楚な雰囲気をより一層引き立てていて……兎に角、金城さんとは正反対な可憐さを秘めたあの彼女に、俺は心を奪われちまったっすぅぅぅぅぅ!

 ……でもいつも兄貴の側にいて、まだ一度も話しかけたことがないっす……。それどころか、いつも声が小さいから、まともに声を聞いたこともないっす……。

 でも、そんなシャイでお淑やかなところが、俺のハートをズキュンと打ち抜いていくんすよぉぉぉぉぉ!

 ……今度兄貴に紹介してもらおうかな?……金城さんにバラされたくなければって言えば、案外簡単に紹介して貰えるかも……い、いやいやダメっす!そんな事したら後でどんな報復が待っているか……ぶるぶる。

「はぁ……どうすればいいっすかねぇ……ん?」

 とぼとぼと歩いていると、突然俺の行く手を一つの人影が遮ったっす。

 顔を上げると一人の少女が……何故か右手を差し出して何かを催促してきてるっす。

 ……お手。

―ドゴッ―

「うごっ……な、何するっすか……」

 少女はいきなり俺の下腹部に膝蹴りをかましてきやがったっす……まだ一回しか使ってないのに使いものになんなくなったらどうしてくれるっすか……あ、何か虚しいっす……。

 しくしくと泣き崩れて悶絶している俺に、また手を差し出して何かを催促してくる少女。

 年の頃は、12~3歳位っすかね?

 真っ黒な長い髪を、所謂「cap」ってやつを被って隠していて、バスケの選手が履いてるようなスパッツと大きめのTシャツ、そしてスニーカーを身に着けて手を差し出しているっす。


 顔は小顔で、ややつり上がった茶色がかった黒い瞳から少し冷たい印象を受けるっすけど、まぁ文句無しに美少女の部類に入る少女っす。……あ!俺にはその手の趣味は無いっすよ?あくまで一般論っす。

 その美少女が片手を差し出して催促してくる様は、世の美少女愛好家なら涎を流して驚喜するだろうっすけど、この俺、堤下栄にそんなものが通じると思ったら大間違いっすよ?

 俺は毅然と……財布の中の一万円を一枚手渡したのだったっす。しくしく。






 その美少女は、俺の渡した一枚の一万円札を不満そうに見つめると、ため息を吐いて腰のポシェットにそれを押し込んだっす。

 タダで貰っておきながら、なんつー態度っすか!

 さすがにこれ以上はつき合いきれないと思い、俺は踵を返して歩き始めたっす。

―むんず―

「……なんすか?これ以上は何も出ないっすよ。」

 歩きかけた俺を、右手を掴んで引き止める少女に、極力冷たく聞こえるように意識して、俺はそう言ったっす。これ以上は彼女への教育上、良くないっす。

「……」

 しかし、少女は俺の言葉には耳を貸さず、グイグイと俺の手首を引っ張りながら人気のない裏路地へと足を進めて行ったっす。

「ち、ちょっといきなり何すか?!俺はこれ以上、君と遊んでるわけには行かないっす!離すっす!」

「……」

 聞こえているのかいないのか、やはり無言でグイグイ引っ張って行くっす。

 振り払っても良かったっすけど、それはそれで大人気ないと思って、俺は黙って着いていくことに……ってここはラブホ街じゃないっすか!

「な、何考えてるんすか!?俺はそんなつもりでお金渡した訳じゃないっす!その金はあげるから離して欲しいっす!」

 突然の展開に、俺は"愚か"にも"大声"で彼女の行動を止めようとしてしまったっす!

 気付いた時には……人だかりがぁぁぁぁぁ!!

 違うっす!これは俺の意志とは関係ないっす!そんな、俺に犯罪者見るような視線、向けないで欲しいっすぅぅぅぅぅ!!

「や、やめるっす!これ以上俺の好感度を下げるような行動は謹んで……」
「ああ……ちょっといいかね?」

 少女ともみ合ってるところを、誰かに肩を叩かれ、声を掛けられたっす。

 機械仕掛けの人形の様にキキィ~っと振り向くと……

「はい、私はこういうものね。君、こんないたいけな女の子を何処に連れ込もうとしているのかね?」

 振り向くと……警察手帳がぁぁぁぁぁ!

 しまった!新手の美人局だったっすか!?

 俺は……気付くと風の精霊に呼び掛けて目眩ましをし掛け、少女の手を振り払ってその場を走り去っていたっす……。








 神様、何故っすか?

 俺は何も悪い事してないっすよ?

 ……手下Aだからっすか?

 手下Aであることが悪いんすか?!

 手下Aがそんなにいけないことっすか?!

 手下Aだって生きてるんすよ?!

 手下Aにだって幸せになる権利ぐらいあるんじゃないっすか?

 神様!手下Aに愛の手をぉぉぉぉぉ!!