web小説 月下の白刃⑯
「おはよう堤下L。」
「おせーぞ手下L!」
「お早う御座います堤下Lさん♪」
「堤下Lさん!この間の領収書の事ですが……」
「堤下L!」
「手下L!」
「て~し~た~Lぅぅぅぅぅ!」
「堤下Lさ~ん♪」
「……」
翌日、誰もいない冷たいベッドで独り目覚め、トボトボと会社に出社した俺を待っていたのは、会う人全員が口にする『L』のオンパレード……なんすか『L』って……。
「堤下Lさん♪男爵……じゃなくて社長が及びですよ?」
「あ、あの……」
「何でしょうか?堤下Lさん♪」
「……その……『L』ってなんすか?」
「はい?何言ってるんですか♪『L』はロンリーロリータ堤下栄さんの新しいコードネームじゃないですか♪ロンリーの『L』♪ロリータの『L』♪」
「はぁ??」
「……はい♪」
にこやかに手渡された携帯の画面に写っていたのは……
「だぁぁぁぁぁ!何すかこれはぁぁぁぁぁ!!」
携帯に写っていたのは……俺の胸に顔を埋める樹里の画像と、俺の想い人が実は変装した金城さんだった事を知ってうなだれている俺の姿だったっすぅぅぅぅぅ!!
……一体いつの間に撮ったっすか?
「あ、手下L、遅いわよ。もう樹ちゃんの紹介、粗方終わったわよ?」
そう言って現れたのは、にこやかに微笑む樹里と、おそらくはこの騒ぎの現況……全世界の敵・猫女・金城美依その人だったっす!
「金城さん!何すかこれは!!」
「何?あ、これ?よく撮れてるでしょ?あんまりにもよく撮れてるから、うちの社員全員に送ってあげちゃった♪」
「な……何やってるっすかあんたはぁぁぁぁぁ!!」
「手下Lの分際で私のやりようにケチ付けるっての?」
クッ……
「こ、これはプライバシーの侵害っす!これじゃあ、樹里だって可哀想っす!!樹里は未成年なんすよ?!樹里!君も笑ってないで、この馬……この人になんか言ってやるっす!」
「え?……だって……これであたしと栄の仲は公認されたわけだし……」
顔を赤く染め、両手を頬に当てて照れる樹里。
「ほら♪樹ちゃんは私に感謝してるわよ♪」
「俺が困るんす!大体俺と樹里はそんな仲じゃ……」
「『樹』よ。」
「……ない……へ?」
「彼女の名前は『折原樹』よ。明日にでもそれで戸籍を作り直すから、今後は彼女の事は『樹』と呼ぶように。」
突然真顔になって、そう俺に注意してくる金城さん。
「は、はい……」
樹里……いや、樹の方に視線を向けると、決意を込めた瞳で頷き返してきたっす。
「じゃ、そう言うことだから。樹、行くわよ。」
「はい!……栄、また後でね♪」
そう言ってきびきびとした歩調で離れていく2人……そうっすか……樹里……君は全てを受け入れると決心したんすね……ってオイ!話はまだ済んでいないっすよ!!
このままじゃ全社員に、誤解されてしまうっす!!
そして俺は慌てて2人を追いかけたのだったっす。
時すでに遅しだったのは言うまでもない事っす……俺はその後、組織はおろか、取引先の人間にまで『L』のレッテルを貼られたのだったっす……。
fin