レムウェルの隠れてない隠れ家

Web小説更新記録やゲーム日誌

web小説 月下の白刃⑮

 ふわふわと海の中に漂ってるかのようなこの感覚……

 薄暗いっすがぼんやりと温かい、明るい闇に覆われいるかのようなこの視界……

 俺はまた夢を見てるっすね……

 全身を覆うこの気だるい倦怠感……でもそれは、決して不快な感覚ではないのだったっす……。

 その海の底にでもいるかのような感覚に身を委ねていると、突然右手がふんわりと、温かい何かに包み込まれたっす。

 その右手は、やがて柔らかな何かにそっと当てられ、ギュッと押さえつけられたっす。

「……」

 手のひら全体にトクトクと伝わる振動と温もりが心地いいっす……。

 しかし、その心地よい感触の中心部では小さなシコリが自己を主張しており、その感触に俺は無意識の内に右手をズラして指先でそのシコリに軽く触れたのだったっす。

「…………っ!!」

 触れた瞬間は柘榴の果肉ぐらいだったそのシコリは、俺が感触を確かめている間に、ついには若いブルーベリーの実の様に堅く大きく変化していったのだったっす。

「っ!!……ん……」

 指先から感じる鼓動は早く鋭くなっていき、温もりは徐々にその温度を上げていったっす。

「…んあ……」

 耳に流れ込む艶のある甘い吐息は、俺の心を徐々に熱くさせ………ん??

 鼓動?……吐息??

 ……ま、まさか……。


―ペタペタ―


「あん♪」

 ダァァァァァ!!


―ガバッ―


「キャ!」

「樹里!一体何やってるっすかぁぁぁぁぁ!!」

 俺はまさかの展開に慌てて起き上がると、素っ裸で俺の右手を自分の胸に押し当てていた樹里に向かってそう怒鳴ったっす!

「何って……ナニ?」

 いきなり目覚めた俺に大して驚いた様子も見せず、樹里は俺の詰問に小首を傾げてそう答えたっす!

「"ナニ"じゃないっすよぉぉぉぉぉ!昨日、俺が言ったこと、忘れたんすかっ!!」

 そう言いながら、俺は昨日のあの戦いの後の事を思い起こしていたっす。

 昨日の風陀羅とのあの戦いの後、さすがに魔力が尽きた俺は、樹里を連れてなんとか自宅であるマンションまでなんとかたどり着くと、その後はベッドに倒れ込んで泥の中のムツゴロウが如く深い眠りについたのだったっす。

 只、その時一緒にベッドに入ろうとした樹里に、俺の替えのパジャマを渡して着替えさせ『昨日みたいな変な気は起こさないように!』とキツく言い含め、頷いたのを確認してからようやく眠りについたはずだったっす。

 そうっす!俺は間違いなく言ったはずっす!だからこれは俺の意志と関係ない出来事なんすよぉぉぉぉぉ!

「栄は……あたしとじゃ……いや?」

 俺の苦悩はお構いなしに、樹里はにっこり笑ってそう誘いを掛けてきたっす!

「イヤとかイヤじゃないとかそう言う事じゃなくってぇ!樹里はまだ小6くらいのはずっすよね?!まだそんな事に身を任せるには時期が早すぎるっす!!」

 俺の魂の叫びに、樹里はぷうっと頬を膨らませると、やや不満そうに口を開いたっす。

「……小6じゃなくて中1だもん……」

「どっちにしろ早すぎるっすぅぅぅぅぅ!!」

 この俺に青少年保護条例に引っかかれと?

「……大丈夫……体は確かに12歳だけど……中身は"樹"であった時を加えると……ほら、栄よりずっと年上だわ♪」

「……"樹"であった時?」

「そうよ……」

 疑問を孕んだ俺の言葉に、樹里は右手を手のひらを下にして差し出すと、その手のひらに"気"を込めながら喋り始めたっす。

「今のあたしは……」

 ぼおっと青白く光を放ち始める樹里の手のひら……

「『折原樹里』であると同時に……」

 その光はゆっくりと中心に向かって集まっていくっす……。

「『鎌鼬の樹』でもあるわ。」

 青白いその光はやがて物質化を果たし、大きく湾曲した一本の白刃へと変貌を遂げたっす。

「勿論……完全な『樹』とまではいかないけど……でも間違いなく今のあたしはあの日のあたしよ?あたしは『折原樹里』であり『樹』なの……だから大丈夫。」

 そう言って樹里が幼い顔に浮かべたその微笑は、確かに年相応の物とはいえず、奇妙な色気を醸し出しているっす。

 でも……

「ダメな物はダメっす!!」

 俺は大人の威厳を込めてそう言い放ったのだったっす!



 ……時間にして五秒ほどの間。

「……ヤッパリ不能?」

「ちがぁぁぁぁぁあうすぅぅぅぅぅ!!」

 なんでそうなるっすかぁぁぁぁぁ!!

「……よね?」

 クスリと笑ってそう言った樹里の視線の先には……

「……っ!こ、こここここれは只の生理現象っす!け、決してそんなやましいことは……ってなんで俺、裸なんすかぁぁぁぁぁ!!」

「クス……そんなに慌てて否定しなくても……あ…裸なのはあたしが脱がしたからよ?傷がまだ結構残ってたから……」

 そう言いながら、おそらくは鎌鼬の特殊能力で作り出したのであろう薬壺を俺に見せながら、樹里は淫靡な笑みを浮かべてにじり寄って来たっす!

 そんな樹里に本能的な恐怖を感じつつも何とか理性を保つと、頭を振ってその誘惑を振り切り、俺は指を差して言ってやったっす!

「だいたい俺は……巨乳マニアなんすよぉぉぉぉぉ!!Aカップなんて問題外っすぅぅぅぅぅ!!」

 ガァァァァァン……ってな感じで樹里は後ずさると、涙を浮かべて悔しそうに両手を布団に突いたっす。

「ふっふっふ……分かったっすか?俺と樹里は決して相容れな……」

「……んで……」

「……い……ん?何すか?」

「揉んで……」

「は?」

 俯いて、肩を震わせ語ったその台詞に、俺は我ながら間の抜けてるなぁと思う顔で返事を返してしまったっす……今、何て言ったっすか?……揉…ん……で?

 はぁ?!

「な……なっなななななな何言ってるっすかぁぁぁぁぁ!!」

「だから揉んでって言ってるの!揉まれればあたしの胸だってきっと大きくなるんだから!」

「アホっすか?!んなこと出来るわけないっすよぉぉぉぉぉ!!」

「何で?!だって栄は巨乳じゃなきゃ嫌なんでしょ?!だったらあたしに協力してよ!!」

「そもそも何で、俺と樹里が結ばれる前提で話が進むっすか?!俺は何度も断ってるっすよね!?」

「……家の家訓……押してだめなら……押しまくれぇぇぇぇぇ!掴んだ男(えもの)は死んでも離すなぁぁぁぁぁ!!」

「何すかそれはぁぁぁぁぁ!」

 そう言って襲いかかってくる樹里に、死に物狂いでそれを抑える俺!

「だぁぁぁぁぁ!どこ触ってるっすかぁぁぁぁぁ!!」

「……ナニ?」

「んなもん触るなっすぅぅぅぅぅ!!」

「……好きなくせに……」

「な、何すかその目は?!そんな台詞どこで覚えたっすかぁぁぁぁぁ!!」

「……お母さん。」

「だぁぁぁぁぁ!何つう母親っすか!?」

「素敵なお母さんだった……」

「い、いやまぁそうかもしれないっすが……」

 突然切なげな瞳で遠くを見つめる樹里に、俺は慌てて口を噤んだっす……。

「……お願い、栄……あたしはあなたじゃなきや嫌なの!」

 キラリと樹里の目尻に光る涙の滴。

「い、いやそれとこれとは……」

 ん?

「あたしってそんなに魅力ない?!あたしじゃだめなの?!」

「……樹里……そう言うことは、きちんと目薬を隠してから言おうね。」

「……チッ。」

「『チッ』ってなんすか?!『チッ』って!!……とにかくだめなもんはダメっす!」


―ガバッ―


「いや!あたしは栄としたいの!」

「ちょ、ちょっと樹里!は、離れるっす!!」

「いや!抱いてくれるまで離さない!!」

「い、いや…だから……」

「あたしは栄がいいの……」

「そんな事言っても……」

「栄はそんなにあたしのことが嫌いなの?!」

「い、いや…そう言う問題じゃなくて……」

「あたしは栄が好き……」

 耳まで真っ赤になって、俺の胸に顔を埋める樹里は確かにこの上もなく可愛いのっす……。

「樹里……君の気持ちは嬉しいっすが……」

「じゃあ……」

「い、いやだから……」


―ピシ―


「……それとこれ……へ?『ピシ』?」


ドガッ―


「いい加減に、するのかしないのかハッキリしやがれ手下Aィィィィィ!!」

 そう叫びつつ天井裏を蹴破って登場したのは、猫女の金城さんだったっす!

 天井裏から飛び降りて来た金城さんは、空中で見事な弧を描き出しながら回し蹴りを放ってきたっす!

「んがぁぁぁぁぁ!なんで金城さんが家の天井裏にいるっすかぁぁぁぁぁ!!」

 その回し蹴りをまともに喰らい、吹き飛ばされながらそう抗議の声を上げる俺ぇぇぇぇぇ!!

「あんたらイライラすんのよ!するのかしないのかハッキリしろぉぉぉぉぉ!!」


―スタッ―


「いや、美依さんが乱入しなけりゃそのままやり始めたんじゃない?良かったなぁ堤下。俺らが乱入したお陰で警察のご用に済んだじゃないか。」

 華麗に床に降り立って至極もっとも(らしき)な意見を口にしたのは、言わずと知れた水無月の兄貴っす。

 一見すると、俺の事を気遣ってくれているような台詞っすが……そんな残念そうな顔で言ったら台無しっすよ!!

「んなことより……なんで二人がうちの天井裏にいるっすかぁぁぁぁぁ!」

 床に打ち据えたおでこを押さえながら、俺は当然といえば当然の疑問を投げかけたっす!

「なんでって……ねえ?」

「そうよ!勿論、あんた達が無事に戻ってこれるか心配してずっと待ってたのよ!」

「……それで待ってる間に酒盛りが始まって、いつもの流れでやっちゃったと……」

「その通り!」

 えばって言うなぁぁぁぁぁ!

「そういうことは自分ちでやれっすよぉぉぉぉぉ!」

「いや、ほら今うちら部屋追い出されて宿ナシだし。」

「そう!俗に言うホームレス!!」

 だから威張ってどうするっすか……。

 うなだれていると、兄貴がさらに追い打ちをかけたっす。

「ほら、ここって酒の種類が豊富だし、ヘタな飲み屋に行くよりも、美味いツマミもそろってるし。会社じゃ気分でないし、ホテルじゃ金かかるし。」

「その通り!!」

 二人の様子にはっとして振り返ると……乱立している幾本もの酒瓶が……。

「あぁぁぁぁぁ!俺の秘蔵のワインとウィスキーがぁぁぁぁぁ!!あぁぁぁぁぁ!こっちはイタリアから取り寄せた極上生のハム……チーズとサラミまで無くなってるすぅぅぅぅぅ!!」

 あんたら、これ揃えるのに一体いくら掛かったと思ってるすか……。

「ま、すべてが丸く治まったみたいで何より。お邪魔みたいだし俺らはこの辺で失礼するよ。」

「その通り!!」

 そう言って、2人は玄関に向かって歩き始めたっす…………ふふふ……ふふふふふ……ふはははははははは!!

 こうなったら、報復覚悟でこの2人の仲に、新たな火種をまき散らしてやるっす!

「待つっす2人とも!」

 俺の言葉に、怪訝な顔で振り向く2人。

「樹里……実は、俺が君を受け入れられない理由はもう一つあるんすよ……」

「……」

「実は俺には想い人がいるっす。」

「っ!!」

「俺の心にその人がいる内は、俺には樹里の想いを受け止める資格はないっす……。」

「……」

「兄貴……」

「なんだ?お前の好きな相手って俺だったのか?悪いが俺は化け猫に取り憑かれておりましてねぇ……」

「その通り!!」

「……違うっす。」

「……?」

 いつもと違った俺の反応に、兄貴は戸惑いの表情を浮かべているっす。

 ……ふふふ……いつも取り澄ましているその表情……今日こそ真っ青に染めてやるっす!

「俺は、合コンの時に『兄貴と一緒』にいつもホテル街へと消えていく、あのメガネの巨乳な帽子の女性が好きなんす!それはもうこの胸はちきれんばかりに……兄貴!今日と言う今日は、あの娘の名前と電話番号をこの俺に教えて欲しいっす!」

「そんな事俺に聞かんでも、ほれそこに本人がいるから自分で聞いてみれば?」

 そう言って指し示た指の先には、大きめの丸い銀縁眼鏡を掛けて、大きめの帽子を深めに被った、合コンの時のあの女性が確かにそこに……へ?

 そこにはさっきまで金城さんが居たはずでは?

 俺が唖然と視線を向けていると、彼女は突然ガバッと帽子と眼鏡を取り外し、にっこりと笑顔を浮かべて喋り始めたっす。

「いや~まさか栄ちゃんの想い人があたくしであったなんて、想像もしておりませんでしたわ♪おほほほほ~♪」

 ……へ?あなたは金城さん?……へ?

「なにいつまでも呆けてるのよ。あんたって、ホント洞察力が足りないわよね~。」

「へ?…だ、だって……」

「『だって』なによ?」

「だって……あの胸……」

「……嫌なところを突っ込むわね……作り物に決まってるでしょ?」

「え?……胸……」


―ペタペタ―



「いやん♪……って何言わせるか!!」

「胸……巨乳……」

「い、いや……そんな両手を突いて愕然としなくとも……」

「まぁ巨乳マニアを自認していた割にはお粗末な観察眼であることは確かだな。」

 あ゛……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛………

「……まぁ傷心の堤下君はほっとくとして、僕らはそろそろ会社に戻りましょうか?」

「そうね。あたくしがこれ以上この場に留まったら、傷心の堤下君の傷口に塩を擦り込むことになりかねないしね。」

 あ゛……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛………

「それじゃぁな。ロンリー堤下……略して堤下L。」

「更に言うならロリータ堤下……これからは手下Lと呼ばせてもらうわ。」


―スタスタスタ……―


 あ゛……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛………


―ポン―


「栄にはあたしがいるから安心してね♪」

 あ゛……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛………