レムウェルの隠れてない隠れ家

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Web小説 炎の意思③

ー炎の意思③ー



 目の前に広がるのは、静寂を囲う不気味な竹林。

(空間隔離・・・いや、空間転移か?!)

 辺りを見渡し、状況を把握することに努めるが、効果が上がっているとは言いがたい。

 竹林からは絶えず不気味な気配が這いだして来ているのだが、その気配が何から起因するものなのか、手懸かりすら掴めないのが現状だ。

「・・・ふぅ・・・」

(・・・先ずは相手を認めること・・・)

 一つため息を入れ、そう心の中で呟く俺。

 それは最近、水無月の野郎に戦う上での心構えを尋ねた時に返ってきた言葉の一つだ。

 悔しいが、どんな状況でも自分を見失わずに勝利を掴み取るあいつの力量は、今の俺では足元にも及ばないものだ。

 でも、だからと言ってその状況を、ただ指をくわえて見ているわけにはいかない・・・俺は強くならなくちゃなんねぇんだ!

 ・・・宗家の能力(ちから)は絶大だ。悔しいが、まともにやり合っても勝てる可能性は限りなくゼロに近い。これは認めなくちゃなんねぇ事だ。

 だがそれが全てじゃねぇ。

(・・・自分が出来ることを把握すること・・・)

 例え、闇雲に力押ししてこの場を切り抜けたとしても、それは運が良かっただけで実力とは言いがたい。

 そんな事が続けば、この商売、いつ命を失ってもおかしくないだろう。

 諦めないことは大切だが、出来ないことは出来ないと、見切りをつけることも必要だ。

 そして、出来る事の中から最大限の効果を生むように、力を尽くすことが重要だとあの野郎は言っていた。

(・・・そして自分を信じること・・・)

 どんな状況に陥っても、最期の最期で頼りになるのは、やっぱり自分の能力(ちから)であるのは間違いない。

 だから、自分自身の強さを信じて戦い続けることが結局は勝利に結びつく。

(・・・やってやるさ・・・俺はここで引くわけには行かない・・・あいつの為にも俺はもっと強くなる!)

 俺は、ジッポの炎からサラマンダーを呼び出して、サラマンダーとの感覚の共有を図る。

 俺は男爵や水無月程、気配を読むのは上手くない。だが、クリーチャーとの感覚共有を使えば、あの二人以上に読めるようになれるはずだ。

(・・・後ろ!)

 背後に空間の揺らぎを感じた俺は、振り向き様、サラマンダーをけしかけ後ろに飛び退いた。

―バシュ―

(なんだ?!)

 手応えはあったものの、サラマンダーから伝わるその気配は、俺が思い描いていたものとはまるで違うものだった。

(まさか・・・幻術か!?これが?!)

 俺は、今ある自分の感覚を疑いたくなってくる。それほど精巧な幻の数々だ。

 目に見える竹林から、風がそよいで葉を鳴らす音、青竹の香りに辺りを覆うこの不気味な気配。ご丁寧に影まで作り出されているのだ。

 今更ながら、宗家との能力(ちから)の差を痛感する。

(それでもやんねぇと・・・)

 この戦いはある意味、宗家との戦いじゃない・・・自分との戦いだ。

 実は、目的も宗家をぶちのめす事じゃない。

『俺はあの頃より強くなったのか?
 俺は本当に強くなれるのか?
 本当に・・・"俺でいいのか?"』

 俺はそれを自分自身で確かめるために此処にいる。

(俺は負けない・・・)

 心の奥でそう誓う俺であった。




「行け!サラマンダー!」

 俺はサラマンダーに命令を下し、"敵"に炎を浴びせるが、"敵"は意に介した様子もなく、炎を退けこちらに向かって歩み寄ってくる。

(くそっ・・・やっぱり炎に炎じゃ時間と魔力の無駄か・・・。)

 俺の目の前に現れたのは、炎を纏った豹のような姿をした魔獣で、素早い上に纏った炎でこっちの攻撃を無効化してくるやりにくい相手だ。

「ウキィィィィィ!!」

「っ!!」

 突然上がった雄叫びに、反射的に飛び退く俺。


―ズガァァァァン―


 俺がついさっきまでいたその場所にはクレーターが穿たれ、その中心ではこれまた炎を纏った魔獣が大地に拳を突き刺し、こっちにガン付けて来やがってる。

「チッ・・・炎の猿・・・焔爪猿か。次から次へと・・・」

 俺は舌打ちをしながらそう毒付く。

 2体とも、今の俺には難儀な相手だ。炎は半減、高い生命力から物理的な攻撃も効果が薄い。

 しかもこの2体、宗家の幻術じゃないとは言い切れない。攻撃そのものが意味をなさない可能性が高い。

 だが今のままの俺の能力(ちから)じゃ、幻術か否かを判別することも出来のねぇって事が問題だ。

 それを解決する方法はただ一つ。より高位のクリーチャーを召喚して感覚共有を行うほか無ぇ。

 しかも、中途半端なクリーチャーじゃ宗家の術を見破ることは出来ねぇだろう。一気にイフリートを召喚してけりを付けたいところだ。

 しかしここで二つのネックが存在する。

 一つはここが・・・今俺がいる空間が、隔離された空間である可能性があるって事だ。もし隔離されちまってるのであれば、イフリートを召喚して、制御をし損なえば、あっと言う間に酸欠になって俺はお陀仏だ。

 そして二つ目は、俺の力量そのもの・・・『イフリートの制御をし損なえば』と言ったが、そもそも今の俺はイフリートを完全に制御できてるわけじゃない。イフリートの能力(ちから)の断片を無理やり召喚して使ってるにすぎないのだ。

 相手を攻撃するだけならそれでも良い。圧倒的な火力で押し流すだけですむ。

 しかし、今必要なのは、『イフリート』という存在そのものを制御するって事だ。イフリートの炎を暴走させることなく、しかもその能力を完全に引き出すには、イフリートに認められる他方法はない。

『今の俺にそれだけの能力(ちから)が有るのか?』

 自問自答してみても、答えは返って来やしない。

「くそっ!」

 俺は新たに召喚したレッドアイで、2体の魔獣に攻撃を仕掛けながら、心の底に焦りを募らせるのだった。