web小説 月下の白刃⑨
あたしは栄に甘えすぎていたんだ……。
出会えたことがあまりにも嬉しくて、会った瞬間全てを栄に委ねちゃっていた……。
夢の事……自分が化け物である事で悩んでいた日々の中での唯一の光明……。
なんでこんなにも胸が疼くのかは分からない。
でも、父さん達の化け物退治の依頼を受けてやって来た栄の姿を一目見てから……ううん……きっと、もっとずっと前からあたしは栄の事を知っていて、彼の事を想う度に胸の奥をざわざわと疼かせて来た……。
だから……栄がどんな風に考えているかなんて考えもしかなった……。
栄にとってはあたしなんて、只の足手まといでしかないのかな……。
あたしは栄に嫌われたくない……これからは栄とずっと一緒に過ごしたい……栄……あなたと出会ってから、そんな想いがますます強くなってきているの……。
栄があたしに何が言いたいのかは、正確には分からない。でも、今のままじゃダメだって事は分かるわ。
だから今回の件は、あたし一人で乗り越えてみせる。
……正直言って怖い……足の震えが止まらない……。
十中八九、あたしは化け物だ……人の皮を被った人ならざる物……。
そう、あたしは自分が化け物であることを確かめるためにこうして街を徘徊しているの……。
あたしには、どうすればいいかなんて分からなかったから、今ある答えの欠片を一つずつかき集めるしか方法はなかった……。
だからあいつに会って話をするの。
昨日、栄と戦っていた鼬の姿をしていた化け物……確か栄達はあの化け物を鎌鼬と言っていた。
多分あれは、あたしの前世に深く関与するもの……あの夢の中に出てきた化け物の一人……あたしの命を奪った……鎌鼬であったあたしの命を奪った……あたしの兄……鎌鼬の風陀羅……。