レムウェルの隠れてない隠れ家

Web小説更新記録やゲーム日誌

web小説 月下の白刃⑪

「母なる大地の精霊よ……我と結びし契約を礎に、床闇に沈みし汝が僕(しもべ)を我が元へ……大地讃鍾!」

 そう唱えて地面に右手で触れると、俺を中心に澄んだ鐘の音が鳴り響き、地面に波紋が広がったっす。

―キィィィン―

 その途端、急激に俺の周りの気圧が下がり、空から風を纏った一匹の獣が降りて来たっす!

「くっ!!」

 それを何とか避ける俺と樹里。

―ズガァァァン―

 半瞬前まで俺達がいたその場所には浅いクレーターが穿たれ、その中心では樹里の前世上での兄である『風の風陀羅』が、その尾を巨大な大鎌に変化させて臨戦態勢を敷いていたっす。

「樹里は離れるっす!」

―パンッ―

「砂柱槍!」

 樹里に注意を促しつつ、俺は地面にパンッと右手を叩きつけて大地の精霊に働きかけたっす!

―ザシュザシュザシュッ―

「ふん……」

 地面から、砂礫の錐が突き出して風陀羅に襲いかかったっすが、それを難なく避ける風陀羅。

「先ずはお前か、手下Aとやら……」

「だから!て・い・し・た・え・い!」

 そう反論しながら、俺は続いて土石流を風陀羅に向かって放ったっす!

 驚きの表情を浮かべる風陀羅……ワンタッチで術を繰り出した事に驚いたっすかね?

 俺は、あのアストールとの戦いで、高レベルの相手と戦う上では、ほんの僅かな術の初動の差が勝負を分けると学んだっす。特に一対一で、長々と呪文の詠唱してるなんて論外っす!

 そこで俺が考えた戦法が『精霊領域』と『多重詠唱法』っす。

 予め精霊が活動し易い領域を作りだし、そこに五精(風水火土雷)のいずれかを流し込むって方法っす。因みに今回は、『精霊領域』の方はここに飛び込んでくる前に完成させてあるっすから、後は多重詠唱法で二種類の精霊を流し込むことができたっす。大地の精霊とあと一つ……それは後々のお楽しみっす!

 激しい土と砂礫の奔流は、次第にその姿を竜に変化させながら、逃げる風陀羅を追って行ったっす。

「チッ……」

 風陀羅はそれを見て逃げるのを諦め、土の竜に向かってその大鎌を振るったっす!

 スパスパとチーズの様に滑らかな切断面を見せながら切り裂かれる土の竜だったっすが、切り裂かれた先から再び土石流となって、今度は四方八方風陀羅を取り囲むように舞い上がり、螺旋を描いて襲いかかったっす!

「くだらぬ!」

 次の瞬間、風陀羅を中心に激しい竜巻が生み出され、土石流を巻き込みながら上空に舞い上がっていったっす!

 風が治まった後には風陀羅の姿が見当たらず、その場はもぬけの殻になっていたっす。

 マズいっす!激しい風の流動の影響で、風から伝わる気配の分析が上手くできないっす!

 目を瞑り、風陀羅の妖気を読むことに全精力を傾ける俺……。

―ピキッ―

 小さな亀裂音と共に地面から飛び出してきたのは、細い幾本かの鋭い刃……恐らくは爪を変化させたその風陀羅の刃が、下弦を描いて俺に襲いかかってきたっす!

「くっ!」

 俺は、横に飛び退きながらナイフを振るって、その刃をなんとか避けようとしたっすが、完全には避けきれず、その内の一本が俺の右の腕の付け根を貫いたっす。

「く……痛…い……っすよぉぉぉぉぉ!」

―ビギギギギギィィィィィン―

「ガァァァァァ!」

 俺は叫び声を上げながら、左手をこの身を貫く風陀羅の刃に当て、この場に呼び出していたもう一つの精霊……雷精に働きかけ、刃を伝わらせて風陀羅本人に激しい電撃を喰らわしたのだったっす!

 今の一撃が風陀羅の居場所をこの俺に指し示してくれたっす。

 俺はナイフを振るって風陀羅の刃を叩き割ると、刺さった破片を引き抜いて、すかさず風陀羅に向かって新たな術を組み上げていったっす!

雷帝掌(インドラの矢)!」

 俺の指先に集められた稲妻が、風陀羅に向かって一直線に伸びていったっす!

「……」

―ヒュン―

 な!……稲妻の矢が風陀羅に届こうかというその瞬間、一直線に進むはずだったその矢があらぬ方向へと曲がって奴を通り過ぎて行ったっす!

 よく見ると、奴の周りに銀色の糸状の刃が無数に走っているっす!

 あれを避雷針代わりにしたっすね?いつの間に……。

「来るのが分かっていれば、雷を避けるのは容易い……」

 あの一撃で……たった一撃で対策を講じれたんすか?!

 驚愕からくる一瞬の間……戦闘中に何やってるっすか俺ぇぇぇぇぇ!!

 慌てて精神(こころ)を建て直したっすけど、一歩遅かったっす!

「風刃乱舞……」

 円に近い形状をした幾つもの小さな刃が奴の周りを取り囲み、それが幾本もの小型の竜巻と共に四方八方から同時にこちらに襲い掛かってきたっす!

 その上、竜巻に巻き上げられた埃のせいで視界は最悪で、風陀羅の姿も見失ってしまったっす……。

「これは……避けられないっすね……。」

 ダメージが避けられない事を悟った俺は、地面に片手を突いて、大地の精霊に呼び掛けたっす!

「金剛壁!」

 地面に触れてる足先、指先から全身に流れ込む大地の精霊の精気……精気は目には見えない障壁を薄皮一枚分作りだし、更には俺の自己回復能力を最大限に高めていったっす。

 激しい轟音と共に襲いかかってくる竜巻と、その竜巻の陰から死角を突いて飛んで来る刃。俺はその二つを敢えて避けずに、この身で受け止めるべく全身に力を込めたっす!

「っ!!くっ……がっ!いでっ!」

 襲い掛かってくる竜巻と刃に思わず苦痛のうめき声が吐いて出るっすが、そんなことには構ってる余裕もなく、俺は次に来るはずの風陀羅の襲撃に備えたっす!

(くっ……まだっすか?!)

 続けざまに竜巻と刃が俺の身体を襲い、全身を激しい痛みが貫いていくっす……。『金剛壁』のおかげで傷は浅く、その傷もすぐさま回復していくっすが、体が切り裂かれた時の痛みまでは消し去ってはくれないのだったっす。

 このままじゃ、集中力が途切れて隙が出来てしまうっす!

(だぁぁぁぁぁ!!早く来るっすよぉぉぉぉぉ!!)

―ヒュン―

 俺の心の叫びが届いたのか、風と刃の攻撃が途切れ、背後から風を切って斬撃音が!

「こっちっすか!!」

―ガキン―

 振り向き様、両手に持った2本のナイフをクルッと回転させながら逆手に持ち変え、面前で交差させてかさ掛けに振り降ろされてきた大鎌を受け止めたっすが……

「ぐが……」

 俺は、風陀羅の大鎌を受け止めきれず、その刃は俺の鎖骨を砕いて肩に食い込んでいるっす!

「栄ぃぃぃぃぃ!!」

 響き渡る樹里の絶叫……でも、今の俺にはそれに応えている余裕は無いっす!

「翔雷!」

 俺がそう唱えると、俺達の周りを取り囲むように、雷が地面から空に向かって何本も伸びていったっす。

 風陀羅はそれを見て、咄嗟に飛び退いたっすが……それが俺の狙いっすよ!

 俺は風陀羅が着地する寸前、爪先でトンッと軽く地面を鳴らしたっす!

「っ!!」

 着地点が突然沼地へと変化し、既に次の動作を行うべく準備をしていた為に踏ん張りの利かないその足場に体勢を崩す風陀羅……そしてその時には既に、俺が呼び出した雷が空中で集まり、一体の巨大な雷球を作り上げていたのだったっす!

「巨人の聖鎚(トールハンマー)!!」

 そして次の瞬間、雷球から一直線伸びていった黄金の槍が、風陀羅の身体を射抜いたのだったっす……。