web小説 月下の白刃⑫
何故……何故なの?!
栄と刃を交えているはずの兄さんの視線が、幾度となくあたしの視線とぶつかっては離れていく……。
ぶつかる視線には、あの狂気じみた光はなく、何故か寂寥と哀愁を感じさせるのだ……何故なの?!
胸の奥がザワザワとざわめく……。
本当にこのまま栄に全てを押し付けてしまっていいの?と、心の中の自分にあたしはそっと囁いてみる……。
栄の言っていた事も分かる……栄があたしを心配してくれた事も嬉しい……。
でも……でも、本当にこのまま栄に全てを委ねてしまっていいの?!
本当に、これが正しい選択なの?
答えて!あたしの中のあたし!!
……兄さんと視線がぶつかるたびに、あたしを襲うこの焦燥感……兄さん……兄さんはあたしに何を言いたいの?そんな瞳であたしを見詰めて一体何を言いたいの?!あたしは何か忘れてしまっているの?
あたしは……あたしは!!
「あ……」
自問自答していたその時、兄さんの大鎌が栄の右肩を鋭く切り裂いた!
「栄ぃぃぃぃぃ!!」
あたしが栄に全てを委ねてしまったから!少なくとも、一緒に戦うって選択肢はあったじゃないの、あたし!!
……しかし、あたしの心配は杞憂に終わる。
栄は倒れる事もなく続けざまに術を繰り出し始めたのだ。
良かった……。
栄の放った一撃は、兄さんの身体を貫き……そして……その瞬間あたしと兄さんの視線は再びぶつかり合う……。
その時、兄さんの瞳から漏れた感情は……愛惜の念……。
「あ……あっ!」
その瞬間……あたしは唐突に、この場に至るまでの全ての事を理解したのだった……。